「自閉症スペクトラム障害」のあるAさんは何に困っているでしょうか。
さて,Aさんは何に対して困っていたのでしょうか。「教室が騒がしかったから?」,それとも「自分の意見がかき消されたから?」いろいろな理由が考えられると思います。しかし,事前にAさんの特性について知識があるとAさんの困り感に近づけると思います。
※「自閉症スペクトラム障害」といってもあくまでスペクトラムですので,個々に特性は大きく違います。知識があるからと言って,子どものことがすべてわかる分けではないことを確認しておきます。
では,Aさんの困り感は何だったのでしょうか。Aさんは「授業は受けなくてはならないもの」と考えていました。そのため,周りがうるさかったり,ふざけていたりしても真剣に授業に取り組んでいたのです。では,困り感はどこからきたのでしょうか。それは「周りに対する苛立ち」でした。「すべきことをしていない周りの生徒」に苛立ちを募らせていたのです。しかも,Aさんはコミュニケーションも苦手なので,周りに注意するもできません。それにより,苛立ちはどんどん増していったのです。
ここで,気をつけてほしいことはしばしば,発達障害の子どもは困った子だという勘違いをしてしまうことがあるということです。確かに,特性があるだけに,他の子ども以上に配慮が必要な場面もありますが,どの場合でも発達障害の子どもへの支援が必要なわけではありません。この数学の授業の場合は,Aさんはしっかり学習できているのですから,教師の支援や働きかけが必要なのは周りの子どもです。どの子どもにどのような支援がいるのかを見抜く力が必要なのです。では,周りで騒いでしまったBさんやCさんの困り感は何だったのでしょうか。実際の授業などでは,そのように考えることで,多くの子どもが学べるすばらしい教室になると思います。
また、Aさんは授業の前に雑談をする先生もあまり好きではありませんでした。先生の雑談を長引かそうとしたり、授業よりも雑談のほうがいいと感じたりする生徒も多いと思います。しかし、Aさんにとっては全く反対で、「先生は授業をするもの」というイメージが強いため、雑談の時間は苦痛な時間になっていました。
Aさんのような発達障害の子どもにはこのように、思い込みが強いということだけでなく、ルーティーンにこだわることも多くあります。
たとえば、Aさんは毎日ほぼ同じ時間に登校していました。これは、朝起きてから家を出る前の動作がルーティーン化されていて、またそれが時間通りになっていたからでした。
Aさんは、学校生活でも毎日同じように過ごしたいと思っています。例えば、普段の50分授業が45分授業に短縮されたり、普段ある清掃活動がなくなったりすると困り感を感じます。このため、その日に急に伝えるのではなく、前日にでも事前に予告してあげることで困り感は少なくなります。
これらの支援は、発達障害の子どもだけでなく、どの子どもも安心して過ごせるための支援になると思います。少し、意識して取り組んでみてはいかがでしょうか。
ちなみに、このAさんは大人になってから自動車の運転をするさいに、教習所で教えてもらった「目視」を10年以上たった現在でも欠かさずにするそうです。これは、Aさんにとってはすべきこととして強調されたからでした。これと同じような経験をしている人もいるのではないのでしょうか。このような視点で考えると、発達障害も性格のひとつだとして、身近に感じられるのではないでしょうか。
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