さて,Aさんは何に対して困っていたのでしょうか。ここで,まず考えられるのが「教科書を読むのが苦手?」ということではないでしょうか。
そして,その場合まず考えられるのが「学習障害(LD)」だと思います。学習障害(LD)は教育の現場ではLearning Disabilityとして使われていますが,医療の現場ではLearning Disorderとして使われているようです。
知的な遅れはないけれど、聞く、話す、読む、書く、計算する、推論するなどの能力のうち特定のものができない特性があります。
ちなみに,DSM-5では「限局性学習症」(SLD=Specific Learning Disorder)に名称が変更されました。
このうち特に読み書きに困難を伴う場合を「ディスレクシア」(読み書き障害)といいます。ディスレクシアの人の多くは,教科書を読むときに文字はわかっても意味が分からなかったり,逆さ読みをしたり,行飛ばしをしたりと難しいことはさまざまです。
また,SLDには「ディスレクシア」以外に文字や文章を書くことに難しさがある「書字表出障害」,数を使った概念の理解や計算に難しさがある「算数障害」があります。いずれにせよ,限局性学習症という言葉が示すようにたんに「特定の分野の学習が苦手だ」や「勉強が少し苦手」という理解しかされないまま,見過ごされることも多いのが現状です。教師や周りの細かな看取りが大切ですね。
限局性学習症(SLD=Specific Learning Disorder)
●ディスレクシア:文章を正確に読み,理解することに難しさがある。
●書字表出障害:文字や文章を書くことに難しさがある。
●算数障害 :数を使った概念の理解や計算に難しさがある。
ディスレクシア詳細は、南雲明彦さんwebpageが分かりやすいと思います。
授業後にAさんに教科書を読むのが苦手かと確認すると,「苦手だ」とは言っていましたが,目の前で教科書を読んでもらうと,クラスの他の児童よりも上手に読むことができていました。では,Aさんはなぜ困っていたのでしょうか。それは,「緊張」でした。Aさんは周りに注目されると極度に緊張してしまうのです。そして,それにより「吃音」が出るのを恐れて,教科書を読めなかったのです。
最近では「吃音症」と呼ばれることが多くなりましたが,DSM-5では「小児期発症流暢症」または「小児期発症流暢障害」と表現されています。また,言語障害(構音障害や失語症など)と混同されがちですが、全く違うものです。「吃音症」は発達障害ではなく、ただ言葉がスムーズに出ないものです。
もちろん,吃音で悩む人の中に,発達障害のある人もいるため,このような誤解が多いのだと思います。
また,一般的には、リラックスしている時や、独り言、歌を歌うときなどはスムーズに喋ることができるものの、人前で話すときやどもることを意識するとつっかえてしまうなど、症状の出方に波があるのが特徴です。
吃音は幼児期に発症することが多く、成人してから発症する人は少ないといわれています。また,原因もはっきりとはわかっていませんが,「環境・心理的要因」や「脳機能障害」,「遺伝的要因」などが言われています。
Aさんの場合,自分の言葉でない(特に方言でない)文章の場合,吃音が出て,さらに,緊張度がますとさらにひどくなるため,マンガのようなみんなに注目されている場面で教科書を読む行為はハードルが高かったようです。
いずれにせよ,Aさんの困り感について考え,寄り添うことがAさんの困り感が分かることに繋がるのだと思います。
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