実際によく見られる場面ではないでしょうか。こんなときにAさんの表情に注目することができていますか。Aさんの表情などを見ることなく,たんに「ふてくされている」や「ひらきなおっている」など捉えてしまうことはありませんか。もしかしたら,そのときAさんのような表情をしていたら,どのように考えますか。
これは,とても難しいケースだと思います。Aさん自身もこのことについてこのときはよくわかっていませんでした。のちにAさんが自分自身の特性を知り,当時の様子を振り返ることで,Aさんの困り感がAさん自身にもようやくわかりました。それは「両眼視できていない」ということでした。
「両眼視」とは,2つの目で見たものを脳で1つにまとめる働きのことです。発達障害との関連性はありませんが,多くの発達障害の人に両眼視できない人がいるそうです。このため,見えているものに立体感がなかったり,左右の視力に差があり,顔を傾けてものを見る習慣があったりします。斜視の人も両眼視できていないことが多いそうです。定型発達の子どもは1歳ごろから立体視できるようになり,6歳ごろで完成すると言われています。子どものころにわかると訓練でずいぶん改善される例あります。
不器用で階段やエスカレーターでよく躓いてしまう人や,運動音痴と言われてボールをうまくキャッチできない人の中には,運動器官やうまく動かせないために起こるのではなく,そもそも目からきちんとした情報が掴めていない人もいます。
何度も何度も練習しているにも関わらず,うまくならないのは,運動器官に問題があるのではなく,見ている情報が正しく認識できていないかもしれません。困っていることだけに限定されず,幅広い視点から教師や周りの支援者は考えていきたいですね。
話をAさんに戻すと,Aさんからすれば自分はしっかり前を見ていたのです。しかし,顔が横を向いているため,後ろから見たBさんにはよそ見をしていると勘違いされたのです。
Aさんがこのことに気づくきっかけは周りからの指摘でしたが,その時にはもう大人になっていました。なぜなら,Aさんにすれば,両眼視できていないことが普通で,ものが立体に見えていないのが日常だったのですから。しかも,Aさんにとって日常生活への支障はまったくありませんでした。※のちに,車の運転免許の時に「深視力」がまったくできなくて困りました。
このように,多くの知識はもちろんですが,何よりその場で子どもが困っていることに気づく力が何より大切ではないかと私は思います。
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